ツクヨミしろくま堂書店blog

こんにちは、ツクヨミしろくま堂書店です。お気に入りの本の紹介を中心にブログを書いています。時々、本とは関係ないことも書いています。

本を守ろうとする猫の話

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『本を守ろうとする猫の話』 夏川草介 小学館

 

「本の力」ってなんだろう。

 

この仕事をしていると、そんな思いを抱くことがあります。

 

1冊の本の出会いで、人生が変わってしまう人もいます。「本の虫なんです」という人はなんだか、悪い人じゃないように思えてしまいます。

 

こういう風に書くと、まるで本を読まない人が悪人のように聞こえてしまう人もいるかもしれませが、そう言っているのではありませんよ。

 

最近、とある普通の一家のところを訪問したのですが、家に本が見当たりませんでした。聞くと、家族全員まったく読まないのだそうです。

 

若い人を中心に本をまったく読まない人が増えているのは事実だし、これは「本が嫌い」というより、「忙しくて読めない」というような、別の理由があるように思えます。

 

情報を得るだけなら、手軽にインターネットから得られます。テレビなどからも得られます。わざわざ長い時間をかけて読み、本から得なくてもよいのでしょう。

 

本=情報源と考える人たちは、早く、要点だけ、苦痛なしに、深い情報を得たいと考えます。なので、売れる本もおのずとそのような条件を満たすことになります。

 

しかし、それはそれで「本に力がある」と言ってよいでしょう。

 

さて、このお話は、亡くなった祖父の古本屋を引き継いだ高校生の青年と、突然現れた人語を解す猫の物語です。

 

青年は猫に導かれるまま、「本の迷宮」を旅します。それぞれの迷宮では、本に対する「自己の姿勢」を貫こうとする人たちと出会い、対峙します。

 

その過程の中で、青年は「本の力」とはなにか?という問いに、自分なりの答えを出します。

 

僕は、この本を読んで、本とは書き手が伝えたいことに至るまでの、旅であるように思えました。読者は著者の気持ちや、主人公、登場人物によりそい、共に悩み、ドキドキしながら読み進めます。

 

その過程の中で、想像力や、気持ちを汲み取ったりする心が育まれるのだと思います。それが「本の力」なのかなぁ、と思いました。

 

それには、読者の脳を最大限に刺激して、頭の中に、ぱーっ、と映像が浮かぶような作家の力量が必要なわけです。でもラッキーなことに、世の中にはそのような良書がまだまだたくさんあります。

 

この本は、とても文章の作りが良くて、情景が頭に浮かびやすく、登場人物の心情もよく描かれています。特に「行間が読みやすい」ということが挙げられます。

 

例えば、最後の迷宮で出会う女の正体。結局最後まで明かされませんでしたが、すぐに正体はわかりました。

 

そして、本好きな人なら、自分なりの「本の力」ってなんだろう?の答えも見つかるでしょう。

 

本を読む、ということは、最後のページに至るまでの「プロセス」が大事なのだと思います。一息に読んでしまえるほど面白いのもいいですが、休み休み読んでくスタイルだっていいのです。

 

僕はいつも、休み休み読むので、とっても読むのが遅いです。でもOK

 

「なにを感じ」「なにを思い」「どう活かしていくか」のステップが自分なりに作れることができれば、万歳だと思います。

 

最後に作中の言葉を引用します。

 

「読み終えたら、次は行動するんだ」

 

 

本を守ろうとする猫の話

本を守ろうとする猫の話