蜜蜂と遠雷
音楽……。それはとても身近なもの、誰にでも等しく与えられている楽しみ。
自然に溢れる音たち、それは真空である宇宙には存在しないけれど、その宇宙にある普遍の法則に従って奏でられる、言葉では説明のできないもの。
言葉では説明できないはずの音楽……。だけどこの本は読んでいると、まるで頭の中でピアノが鳴り響いているみたいです。
「芳ヶ江国際ピアノコンクール」を舞台に繰り広げられる音楽の神様に愛された4人のコンテスタントたちの、それぞれのピアノを弾く理由、葛藤、必然……。
ひとりの無垢な天才少年が、コンテスタントたちの心に風を起こし、それぞれの演奏が響き合い、聴衆の心に、読者の心に「音楽の素晴らしさ」を感じさせてくれます。
そして、この本の大きな特徴としての臨場感ー
まるで、観客のひとりとして、コンサートホールにいるような、コンテスタントとして大勢の観客を前にして演奏しているような感覚。それは自然のおおらかさと荒々しさだったり、時には異国の地に踏み込んだような経験だったりします。
とても長く、本の厚みもあります。でも、読んでいると心地よい音楽にいつまでも身を委ねていたいような気持ちになります。
だんだんと最後の頁に近づいていく栞が、とても愛おしく感じる、そんな本です。
そして、心地よい裏切りを感じたコンクールの結果。
「世界はこんなにも音楽にみちているー」その言葉が、いつしか、誰の胸にも染み込んでゆくのです。
納得の直木賞受賞作品。