とりつくしま
大切な人をなくしてしまった悲しみ……。しかし、死んでしまった「大切な人」にも悲しみはあるのです。
死は、まえぶれもなく、突然やってくる人だって、いるわけです。そんな人たちはこの世に残してきた「大切な人」にたくさんの未練があるわけです。
あの世とこの世の狭間にあるところに、「とりつくしま係」がいます。
この係は、この世にたくさんの未練を残してきた人たちの魂に、チャンスを与えます。それは、モノになって大切な人のそばで過ごす第二の人生。
ある人の魂は大切な妻の日記に、ある人の魂は公園のジャングルジムに、またある人は白檀の香りの扇子に……。
そして、それぞれのモノの目線から、死んだ魂は「大切な人」の生活を見るのです。
そこには、嬉しい現実や、見たくない現実もあります。
モノである彼らには、声をかけることさえできません。ただ見守るだけなのです。
11の短編からなるお伽話の群れ。
ある人はジーンとしたり、ある人は自分と重ねたり、またある人は「自分がモノになるとしたら」なんて想ったりするのです。
自分の周りにあるたくさんのモノたち……。ひとつひとつに、もうこの世にはいない、大切な人の魂が宿っているとしたら。
なんとか、「お願い、もう一度だけお話しをさせてください」って思います。
この本を読んだ後に、「あの人、お空でどうしているのかなぁ」と思い、今会える大切な人が、なんだか頭の片隅を慌ただしく動き始める。そんな感覚を覚えます。