とりつくしま
怪物はささやく
『怪物はささやく』パトリック・ネス 著 シヴォーン・ダウト 原案
池田真紀子 訳 あすなろ書房
13才の少年、コナー・オマリーは思い病気のお母さんと二人暮らし。学校ではお母さんのことでみんなから特別扱いされて、自然と自分の周りに壁を作ってしまい、孤独感を深めています。悪夢にまでうなされ続けるコナーは、ある夜怪物と出会います。時刻は0時7分ー。
怪物はコナーに3つの話を聞かせます。どれも悲しい結末の物語にコナーは納得がいきません。そして、怪物のする3つの話を聞いた後は、次はコナーが4つ目の話を怪物にしなければなりません。
実はそれが、コナーが怪物と出会った理由なのです。
この物語は不安や恐怖、怒りや破壊で満ちているのに、ラストは癒しに溢れていて、悲しいのにとても美しいのです。
大事な人や、想いを寄せるものを失うこと……。
その喪失感による心の傷はその人でしか味わえないし、わからないことが多いです。絶対に他人に100%理解してもらうことは不可能でしょう。時にはそこから抜け出られなくなって、何年も何十年も時間が過ぎることがあります。
心配してくれている人たちに気遣って、なんとか明るく振舞ったり、そのことを忘れたかのように生きることもできます。しかし、人のことがなんとなく信じられなかったり、心に思ったことが素直に口にできなかったりするのは、そんな喪失感による心の傷が癒えていないからではないでしょうか。コナー少年に気持ちを近づけると、そんな気がします。
この物語は、誰もが持っているそんな心の傷に触れて、暴れさせます。
人から暖かかくしてもらったり、励ましてもらったりすることで元気になったり、また歩き出すことはできます。でも本当にその傷を癒せるのは、その当人でしかないのです。その傷に、その人自身が向き合い、見つめることがその第一歩であることを感じさせられました。
それは、簡単ではなく、勇気が要ることです。
そして、そんなひとつひとつの歩みを、ただ一緒に寄りそって歩む。そんなイチイの木の怪物のような人になりたいー。そう、思いました。